試しにアニソンを聞いてみる。

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歌手の話 綾野ましろ(ideal white,vanilla skyなど)

  
綾野ましろ 『vanilla sky』

 

 綾野ましろは藍井エイルの影響からアニソン歌手を志すようになったということらしいが、確かに技術的には少し違いがあると思うけれど、キャラクター的にはやや似たところがある。


 比較するなら、綾野ましろの方が楽曲としては複雑なものが多い。彼女の歌は大体使わされる音域は狭いが、妙な動きを要求されたりリズム的に複雑な曲が多いし、どちらかと言えばこの歌手は固有のキャラクターを持ちながら、小難しいところのある歌を綺麗に歌ってみせるのが少し珍しいと言える。一言で言うなら、非常にセンスのある歌い手だ。

 

 長きにわたって色々なCDを出して来た歌手を除けばCD音源から分かることは非常に限られているし、別に長きにわたって色々なものを出してきた歌手でも筆者程度の平凡な耳の持ち主にはよくわからないことも多い(どうももうしわけない)。特に綾野ましろはよく言っても悪く言っても個性的な歌を持つ歌い手である上にまだシングルが3つとアルバム一つしか出ていないので、CDだけを聞いてなにかを断言するのは難しい部分があるけれど、結論から言ってしまうと某所でリスアニstudioに収録されている生に近い音源を拾い食いした時は非常に歌は整っていた。動画自体は未だどこかにあると思うので、気になったら探してみて欲しい。因みに、乱れている部分もあるように聞こえるという人は、非常に厳密な意味で正しく歌を聞く能力を持っている可能性がある(実際に乱れている個所はある)が、ある意味ポップスらしい発声の歌手は誰でもが名前を知っているような歌手でもあんなのは比じゃないぐらい崩壊することが多いし、そこまで細かいことを要求しながら聞くのはなかなか難しさがあるかもしれない。正直に言えば筆者もCDを聞いて生の状態があんまり想像できなかったので、あのキャラクターであんなに再現性の高い歌が来るとは思わなかった。

 

 筆者は個性的な歌手を、綺麗でわかりいい発声から妥当な曲が出てくるタイプの歌手と意図的に同じ土俵に乗せずに評価しているところは間違いなくあるし、それで歌が上手いとか上手くないとか言うのは恣意的なことだと思われるかもしれないけど、一言で言えば個性的な歌ほど制御するのは難しいし、それをする歌手にはポピュラーミュージックとして価値がある。極端に言えば浜崎あゆみとかだってあのキャラクターを制御して音源化しているから売れたわけで、なんにせよメジャーアーティストのCDを中心に聞くなら、ちょっと踏み込んだ段階で個性という水準で歌を理解することが必要になるはずだ。その個性の水準を如何に音域とかみたいなわかりやすい概念に陳腐化させないで聞くことが出来るかが、多分現代人に求められているようなポピュラーミュージックを聞く能力なのだと筆者は思う。

 

 逆に言えば鈴木このみ西沢幸奏みたいな個性的というよりは非常に制動的なところに更に綺麗な歌を乗っけたような、ある意味個性がないと思われやすいようなシンガーは、チープな意味でも踏み込んだ意味でも個性的な歌手の集うJPOPの世界ではそう多くない。こうした歌い手の歌には素人目に分かりやすいような表現性(チープな意味合いでの「個性」)から離脱した、楽曲を歌にするということの基礎基本が詰まっているとも言えるので、そこから歌を聞き始めることにはわりと汎用性があると筆者は思っているし、そういう非常に広い意味での綺麗さが認められるのが今のアニメソングのとても良い変化だと思っている。その視点から見れば綾野ましろの歌は多少邪道かも知れないが、ポップス的には全然ありだし、寧ろ個性的なキャラクターを維持しながらこうした一貫性のありクオリティの高い音源が出て来るところは、幾ら高く評価されても評価され過ぎるという事はないと筆者は思っている。

 

※※※                                      ※※※

 


綾野ましろ 『ideal white』

 

※冒頭のvanilla skyのPVで聞けるのはサビなんですが、ここで説明しているのはイントロで、サビとイントロでは端的に構成が違いますがご了承ください。

 表拍と裏拍の概念については、ボーカルが曲を歌にすることについて その1 - 試しにアニソンを聞いてみる。で説明していますので、もし混乱が生じるようでしたら参考にしてみて下さい。

 

 たぶん代表曲はデビューシングルのideal whiteで、一言で言えば成功しそうなタイアップに妥当な歌がくっついてとても売れた。僕はvanilla skyの方が好きなのでそっちを扱いたいと思う。

 

 この曲はイントロのフレーズがさり気なくやっているようだけど複雑だ。出だしの

いーまーぞらのほしかけして

◯ ◎ ◯ ◎ ◯ ◎ ◯ ◎ ◯

 

 のところを一呼吸(ワンフレーズ)で歌う。◯と◎は表拍(◯が1,◎が3拍目)で間は裏拍(2,4拍目)だ。この曲は表拍が強拍(強く歌う場所)になっている。一度手拍子しながら口ずさむとイメージがつかみやすい。

 

ぼくちのみらいは いまのしゅんかんの ぼくたしだい

◎ ◯ ◎ ◯ ◎ ◯ ◎ ◯ ◎  ◯ ◎ ◯  ◎ ◯ ◎ ◯

 

 何が言いたいかというと、ここまで強拍(1,3拍)と伸ばし棒(ー)がいくつか重なっている箇所がある。この場合歌い手は一つ前の音から強く入る(要するに強勢の位置を前に移動させる)か、音を伸ばしている途中でアクセントを強くするかのどちらかを選択させられる(不自然なことに聞こえるかもしれないが、実を言うとわりとありふれたテクニックだし、実際にそういうことをしているCDはこの世にごまんとある)。

 前者の方法を使うと強制的にシンコペーション(強拍の位置が移動する現象をそのように言う)させられる。この場合、弱拍になるべき位置にアクセントが来るので聞いている側は混乱しやすい。具体的に見ていく。

 

 CDのイントロでは よぞらの の「のー」のアクセントは「の」の上ではなく「」の上で付いている(聞きづらいかもしれないけど「の」の音が後ろに行くほど強いと思うし、イメージとしては「よぞらの」と歌っている)し、 ほしかきけしてー の「てー」のアクセントはシンプルに「」の上に移動している。

 ぼくたちの「み」らい「はー」 の「み」は後ろの伸ばし棒上にアクセントがある(あるというより、そこにつけて「みい」にしようとしているので、次の「ら」がやや抜くような一瞬の音になっている)し、「はー」ははの上にアクセントが移動して来ている。「わあ」ではない。

 このしゅ「ん」かん「の」もだいたい同じだが、「のー」は伸ばし棒上にアクセントが乗っているのでそこまでの2つの後ろのアクセントがずれる法則とは少し異なる。

 

 何をしているのか具体的に説明すると、伸ばし棒の音と直前の音とを分解し、伸ばし棒の上にアクセントを持って来ると、リズム的に平易になる(強拍にちゃんとアクセントが乗るから、聞いている方はそこがリズム上の区切りになると分かりやすい)し、他方で伸ばし棒の前にアクセントを移動させる場合、伸ばし棒で歌が切り離されないためメロディーがより簡明になり歌としても自然になりやすい。要するに、直後に続くフレーズがあるときは音を伸ばし棒上で区切ってリズムを意識させ、フレーズがブレス(息継ぎ)で途切れるときはまとめてロングトーンにすることで歌を滑らかにしているのだ。

 因みに このしゅ「ん」かん「の」 のフレーズの最後はどうして伸ばし棒の上からアクセントを動かさないのかというと、そこでリズムを遅らせても音をロングトーンに出来る十分過ぎる時間が後ろにあることと、オケのアレンジで「の」の後ろの「ー」から入るにゅるんみたいな謎の音(シンセのグリッサンド?)があることからそこでアクセントを付けるのが自然になるからだ。

 

 これはこの通り歌わないとだめという話ではないが、重要なのは綾野ましろがこのようにリズムを使い分けていることによって歌が非常にわかりやすくなっているということだ。聞いている方がわかりやすいならわりとどうなっていてもいいのだが、この音源の方法はかなりシンプルにまとまっていると思う。

 

 この歌はあらゆる場所でずっとこんな感じのことをしている(音が裏拍から入る位置だけ指摘していっても数が多すぎる)。偉そうなことを言っておいて難だが、筆者はリズム感がないのでこの歌をこんな風には歌えない自信があるし、これが当たり前だろうと感じられた人はとても音楽的なセンスが有ると思うし、実を言うとこういうことは綾野ましろだけじゃなくたくさんの歌手がやっているし、どんな歌にでも応用が効く。

 

※※※                                      ※※※

 

 そもそもここで引っかかる部分のある人もいるかもしれないが、綾野ましろの歌い方はかなり個性的だとしか言いようがないと個人的には思う。僕はV系から来たような歌手という表現がとても言い得て妙だと思うのでそれを個人的に流用しているし、特に綾野ましろは滑舌を誇張して歌う癖があるのが非常にわかりやすい。

 

 歌の中で滑舌とアクセントを取っていくというよりも、滑舌とアクセントを取るために歌を歌っているような感じすら受けるし、普通メロディーに起こすことがとりあえずの目標になる歌の世界において滑舌を聴かせるために歌うというのは、文化としては特におかしさはないんだが歌を勉強する立場からしてみればある意味シンプルに世界の違いを感じさせる部分がある。音楽にメロディーが乗り、メロディーの上に言葉が乗って歌になるのが王道のボーカル曲だとすると、言葉からメロディーを組み立ててそれをオケに突っ込むのは極めて個性的な表現の世界だと思うし、まだ若いであろう(と僕は思っている)綾野ましろがその方法論を自分のものにしているばかりではなく、それをかなりの精度で実際の歌の中でコントロールしているのはとてもおもしろいと思う。

 

 最後に、実際に綾野ましろがCDと同じように生で歌えるかどうかということについて、個人的な考えを述べたい。世の中には歌えると歌えないの間に、歌えないけどCDになるという別のレベルがある。そこがCD音楽の可能性を広げているという話でもあるし、そういううがった聞き方をせざるを得ない(明らかにCDの歌われ方に再現性がない)歌手も世の中にはたくさんいるが、綾野ましろの場合は今のような、生で殆どCDと同じような内容の歌が聞けるであろう歌い方でかなりキャラが定まっているので、そういうCD的な、ある意味チャラチャラしい領域には今後も踏み出さないだろうと筆者は思う。

 歌えると歌えないの境界を跨ぐ音楽と跨がない音楽には聞いているだけでも違いはある。最大の違いは、CDの向こうにいるのが歌のうまい誰かに見えるのか、歌手本人だと思って聞けるのかという事だ。綾野ましろの曲はその点で、綾野ましろ自身もCDのようにして綺麗に歌うことが出来るであろうことが推測される、とても信用性が高い音源があふれている。今後にも大きな可能性を感じさせる、素晴らしい歌い手だと個人的には思う。

 

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